バフとコンパウンドの組み合わせ ― ポリッシャーの使い分けと工程設計
同じ傷を消すのに、ポリッシャー・バフ・コンパウンドの組み合わせは何通りもあります。どれも間違いではありません。だからこそ、現場では組み合わせが増えていきます。
このページは、組み合わせを増やすためではなく、必要最小限に絞るために書いています。何を基準に選び、どこで結果を確かめるのか。当店がプロ向けに行っている研磨講習で扱っている、工程設計の考え方をまとめました。
なぜ、組み合わせは増えてしまうのか
組み合わせが増える理由は、技術不足ではありません。結果を確かめる手段がないからです。
目視で「まだ甘いかもしれない」と思えば、もう一工程足したくなります。足せば時間もコストも増えますが、少なくとも失敗はしない。この判断を毎回くり返した結果として、工程表にバフとコンパウンドの組み合わせが積み上がっていきます。
逆に言えば、「ここで止めてよい」と言い切れる根拠さえあれば、組み合わせは減らせます。減らすための技術は、足すための技術より難しいというだけです。
組み合わせを決める前に、決めておくことが3つあります
① どんな塗装なのか
国産車と輸入車、ソリッドとメタリック、旧塗膜と補修塗膜、そして自己修復クリヤ。塗膜が違えば、同じバフとコンパウンドでも削れ方が変わります。ここを見ずに「いつもの組み合わせ」から入ると、硬い塗装では時間だけが溶け、柔らかい塗装では入れすぎます。
② どこまで消すのか
すべての傷を消すのが正解とは限りません。深い傷を1本消すために全面を余計に削るのか、それとも浅い傷を確実に消して全体のツヤを揃えるのか。これは技術の問題ではなく、お客様の予算と車の使い方に対する判断です。先に決めておかないと、作業中に迷いが出ます。
③ 何を残すのか
研磨はクリア層を削る作業です。今回どれだけ削り、次回のためにどれだけ残すのか。ここを意識しているかどうかで、同じ仕上がりに見えても数年後が変わります。
この3つが決まってはじめて、ポリッシャー・バフ・コンパウンドの組み合わせは「選ぶもの」になります。先に道具から入ると、何通りもの正解の中で迷い続けることになります。
ポリッシャーは、種類ごとに役割が違います
当店が実際の施工で使い分けているのは、次の3系統です。
| 種類 | 性格 | 主に受け持つところ |
|---|---|---|
| シングル(可逆転式・回転式) | 削る力が最も強い。そのぶん熱が入りやすく、扱いに慣れが要る | 深い傷を落とす初期工程 |
| ダブルアクション/ランダムアクション | 偏心して動くため熱が入りにくく、面が荒れにくい。削る力は穏やか | 仕上げ、面を整える工程 |
| ギアドライブアクション | 強制的に回るため、上の2つの中間の性格を持つ | 中間工程、工程をまとめたいとき |
工程を減らせるかどうかは、この「中間」をどう使うかで決まる場面が多くあります。初期工程と仕上げ工程の2台だけで組もうとすると、その間を埋めるためにバフとコンパウンドの組み合わせが増えていきます。
バフとコンパウンドは、単体ではなく「対」で考えます
「このコンパウンドが良い」「このバフが効く」という選び方は、単体では成立しません。同じコンパウンドでも、ウールに乗せるかスポンジに乗せるかで削れ方はまったく別物になります。
当店の場合、バフはウールとスポンジ、コンパウンドは細目・極細目・ノンシリコン超微粒子という組み合わせを軸にしていますが、大事なのは銘柄の一覧ではなく、「この塗膜に、この傷に対して、どの対を当てるか」を説明できることです。
ここが説明できるようになると、手持ちの道具を増やさないまま、対応できる車の幅が広がります。逆に説明できないままだと、新しいコンパウンドを買い足しても組み合わせが増えるだけで、工程は短くなりません。
絞れるかどうかは、結果を数値で見ないと決まりません
当店は研磨の前後を測色計で計測し、仕上がりを数値で記録しています。「なんとなく良くなった」ではなく、どこまで改善したかを数字で確認するためです。
この数値があると、「2工程目は本当に必要だったのか」を後から検証できます。必要だったなら残す、変わらなかったなら次から外す。組み合わせを絞るというのは、勘を鋭くすることではなく、この検証をくり返すことです。
正確に書きます。ΔE00 は「色の違い」を表す数値であり、「ツヤ(光沢度)」そのものの数値ではありません。光沢度の測定には JIS Z 8741 という別の方法があります。また ΔE00 の数値だけで仕上がりの良し悪しが決まるものでもありません。測定の具体的な手順・条件・判定の基準は、方式の一部だけが独り歩きしないよう公開していません。
組み合わせを絞った店から、こう聞いています
当店の研磨講習を受講された方から、くり返し伺っている変化です。
- 3工程かけていた作業が、1〜2工程で終わるようになった(仕上がりの数値も落ちていない)
- 1工程あたりの作業時間も短くなった
- ポリッシャー・バフ・コンパウンドの組み合わせを、必要最小限に絞れた
- 予算に応じた工程の組み立てが、数値化によって説明しやすくなった
- 新人が短期間で戦力になった
- 新人からベテランまで迷いが消え、接客の説得力が増した
※ 受講された方から伺っている内容です。塗膜の状態・設備・作業者によって結果は変わります。同じ結果をお約束するものではありません。
よく見かける、遠回りの3パターン
1. 全車に同じ組み合わせを当てる。塗膜を見ずに工程表から入ると、硬い塗装では削れず、柔らかい塗装では入れすぎます。どちらも結果として工程が増えます。
2. 前工程の傷が残ったまま次へ進む。次の工程で消えるだろうという判断は、たいてい外れます。最後に「なぜか曇る」の正体はここにあることが多く、結局戻ることになります。
3. 道具を足して解決しようとする。新しいバフやコンパウンドは、判断基準がないまま増やしても選択肢が増えるだけです。まず、いま持っている組み合わせで何が起きているかを数値で押さえるほうが早い場合がほとんどです。
1工程減らすとき、確かめる順番
工程を減らす判断は、勇気ではなく手順です。当店では次の順番で確かめています。
- 減らす前の状態を数値で記録する。比較の基準がないまま減らすと、良し悪しを議論できません。
- 減らすのは1か所だけにする。ポリッシャーとバフとコンパウンドを同時に変えると、何が効いたのか分からなくなります。
- 同じ塗膜、同じ条件で比べる。別の車、別の面で比べた結果は、次に使えません。
- 差が出なかった工程を外す。差が出たなら残します。「たぶん必要」で残さないのが要点です。
- 外した状態で、もう一度別の車で確かめる。1台で決めない。ここを飛ばすと、後で戻ることになります。
この手順を回せるようになると、工程表は自然に短くなっていきます。逆にこの手順がないまま工程を削ると、仕上がりが不安定になり、結局もとに戻ります。
よくあるご質問
Q. ポリッシャーが1台しかありません。それでも組み合わせを絞れますか。
絞れます。台数を増やすことが目的ではありません。いま持っている1台がどの性格なのかを理解し、その1台で届く範囲と届かない範囲を数値で把握するほうが先です。買い足すかどうかは、その後で判断できます。
Q. コンパウンドやバフの銘柄を教えてもらえますか。
講習では実際に使用している資材をお見せし、手を動かしていただきます。ただし「この銘柄を買えば解決する」という形での銘柄一覧の配布はしていません。同じ資材でも、塗膜と当て方が違えば結果が変わるためです。
Q. 自社で使っている道具を持ち込めますか。
歓迎します。普段お使いの道具で測ったほうが、そのまま自店に持ち帰れます。事前のヒアリングでお知らせください。
Q. 結局、何工程が正解ですか。
車と目的によって変わります。工程数そのものに正解はありません。正解があるとすれば「その仕上がりに必要な最小の工程数を、根拠を持って選べていること」です。
Q. 検証会と講習、どちらから始めるべきですか。
はじめての方は検証会からをおすすめしています。半日で現在地が数値で分かり、そのうえで講習が必要かどうかを判断できます。講習に進まれる場合は受講料から110,000円を差し引きますので、先に検証会を受けても費用の重複はありません。
読むだけでは決まりません。実際に測って確かめる場所があります
組み合わせを絞れるかどうかは、ご自身の手と、ご自身が普段使っている道具で測ってみないと分かりません。当店は、そのための場を2つ用意しています。
まずご自身の磨きが、いまどの位置にあるのかを測色計で数値化します。資格も所属も問いません。熊本・名古屋のほか、出張での開催にも対応します。講習に進まれる場合は、受講料から110,000円を差し引きます。
理論と手を、数値で結び直す講習です。カリキュラムは固定ではなく、事前のヒアリングで必要なところから組み立てます。国産車中心の方は標準コース(3日間)、輸入車や自己修復クリヤを日常的に扱う方はTopProコース(4日間〜)が土台になります。
講習の理論的な土台は、ケヰテック株式会社・金子幸嗣代表(日本コーティング協会 技術顧問)が月刊BSR誌に2017年から連載した内容をまとめた書籍『塗膜研磨の科学的アプローチ ― 磨き作業の哲学的思考』(プロトリオス/2022年9月/ISBN 978-4-9907550-4-1)です。書店で入手でき、どなたでも内容を確認できます。
プロ向け研磨講習の全体像 | 研磨検証会 | 標準コース(3日間) | TopProコース(4日間〜) | カーコーティングで起業する方へ | 一般のお客様の外装研磨・車磨き | コーティング技能検定
測色計を用いた評価方式について
この評価方式は日本コーティング協会が、月刊BSRに連載された、「研磨した塗面のツヤを測色する」(ケヰテック株式会社金子代表投稿)の内容に基づき、金子代表立会いのもとご協力いただき、更に工夫を重ね出来上がった評価方式になります。
日本コーティング協会は、お客様にワンランク上のコーティング・サービスを提供するとともに、優れたコーティング技術の存在を一般に広く知らしめることで、お客様の満足度向上と業界のボトムアップを図ることが目的で活動しております、従いまして、興味がある方は、必ず当協会にお声をお掛けください。
評価方法のみを真似ることではなく、なぜ、ツヤが測色できるのか?、ツヤの色による数値化が必要なのか?、それの根拠、他の方法との比較や優劣、注意点など、を丁寧に説明して、話し合うことが出来ます。
※当店は一般社団法人 日本コーティング協会の会員です。本ページは当店が実施する講習のご案内であり、協会が個別の店舗や事業者の優劣を認定・推奨するものではありません。
